« 後日談【映画鑑賞料金の改善提案】 | トップページ | 金属疲労したジャパンシステム »

床屋の経済学

 2002年に、タクシーの規制緩和を推し進める道路運送法「改正」法案が施行されたことを皮切りに、全国のタクシー台数が急増したことは記憶に新しい。
 今まで規制で守られたきた業界に自由競争の原理を持ち込むことによって、ただでさえ需要のないところに膨大な供給のみが発生した。そのために、既存のタクシー業界からは悲鳴があがった。
 タクシーの需要が最高潮に達していたバブル期にこの規制緩和を行えば、また違った結果が出ていたのかもしれないが、消費不況の真っただ中で、規制緩和を行えば、どのような結果が出るのかはほぼ見えていた。いずれ、需要と供給の均衡点に落ち着くことになると思われるが、数年経った現在も、タクシー業界は依然として厳しいままらしい。

 タクシー台数と同じように、最近、よく目に付くようになったのが、街中にある理髪店や美容院である。
 商店街などを歩いていると、妙に美容院が増えたことに気付かされる。ほとんど距離を置かずに、同じような美容院が軒を並べている。料金などを書いた看板を見てみると、以前のような高い料金設定ではなく、比較的安価になっているようだ。しかし、中を覗いてみると、それほどお客が入っているわけでもない。せいぜい1人か2人のお客しか入っていない。
 スタッフはどこも数人いるみたいなので、お客が2人と考えても、随時全スタッフが稼動しているわけではなさそうだ。はたして、そんな状況で、店の賃料や、管理費や諸経費、スタッフの給料を支払っていけるのだろうか?という素朴な疑問を感じながら、いつも店の前を通り過ぎる。

 かつて理容業には、『全国理容・美容生活衛生同業組合連合会』というものがあり、床屋カルテルと言われるような、暗黙の営業ルールが設定されていた。料金から営業日・営業時間までを規制し、利用者によっては余分なサービス(髭そり、シャンプー等)も無条件にセット化し、全国一律料金が決められていた。この規制を破った加盟店は、お上から指導(行政指導?)されるという、ほとんど営業妨害か消費者無視としか思えないような取り決めが敷かれていた。
 しかし、この協定も、数年前に大半が解除されたために、床屋業界にも一種の価格破壊の波が押し寄せる結果となった。組合の加盟店では3600円という基本整髪料金が、非加盟店では、半値以下というところも出現してきた。そのせいで、既存の理髪店のお客は激減しつつあるようだ。

 私が通っている理髪店も、未だに3600円だが、すぐ近所には2000円代、1000円代の理髪店も存在している。私の場合、2ヵ月に1回程度しか行かないので、散髪代までセコセコしたくないという思いと、待ち時間がない(空いているため)というメリットから、理髪店を変更するようなことはしていないが、単に料金の高低だけで考えると、現在の理髪店を選択する合理的な理由は無いかに思える。

 美容院や理髪店に要求されるものとは、他のサービス業と同様、技術(センス)と料金の2つだ。(3つ目の条件に“愛想良さ”もあるかもしれないが)

 1、技術力のある(=腕のある)床屋
 2、料金が安価な床屋

 基本的には、このどちらかを満たしていないと、競争で生き残っていくことは難しいかもしれない。当然、安かろう悪かろうでも生き残ってはいけないだろう。

 今まで、規制に守られてきた床屋でさえも、これからは、自由競争の波にさらされる、いや、既にさらされている。消費者に対する何かしらの付加価値を見い出していかないことには、お客を増加させることは極めて難しい状況とも言える。
 半押し売り的な、前世紀メンタリティーを持ったままでは、人口自然減の社会では、お客は減少していくしかない。そのことはどんな業界であっても同じだ。創意工夫と自助努力を維持し続けない限り、需要としてのお客は増加しないという厳しい時代認識が必要だろう。とはいえ、それは本来、商売人として当然持っていなければならない素質でもある。

 現在の理容業界は、料金を一律固定にするという計画経済と、料金を自由に設定できるという自由経済が同居しているような状態だ。
 このどちらが勝利することになるかは、考えるまでもないだろう。なぜならその勝敗を決するものとは、消費者でしかないからだ。消費者がどちらを選択するかは、既に結果として現れてきている。この現象は既存の床屋にとってはジレンマだろうと思う。料金は勝手に下げることができないので、下げるわけにもいかない。仮に下げることができたとしても際限ない安値競争に突入してしまう危険性もある。そして、そのどちらを選択したとしても、確実にお客が増加する(=売上げがアップする)という保証はない。まるでタクシー業界が陥った罠を眼前に見ているような感覚かもしれない。それでも、1つだけ確かなことは、理容業界を取り巻く環境は、以前とは全く違ったものに変化するということだ。
 21世紀の床屋が今後、どのように変化していくのかを、期待を込めて見守りたい。

|

« 後日談【映画鑑賞料金の改善提案】 | トップページ | 金属疲労したジャパンシステム »

「経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/199859/16475977

この記事へのトラックバック一覧です: 床屋の経済学:

« 後日談【映画鑑賞料金の改善提案】 | トップページ | 金属疲労したジャパンシステム »