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政府の少子化対策=公務員極楽天国方案

 先週(11月28日)、政府による『子どもと家族を応援する日本重点戦略検討会議』なるものが行われ、最終報告書が基本合意されたとのニュースがあった。
 基本となる骨子は、現在の少子化対策の制度的課題と今後の対応策を提示することらしいのだが、そこで基本合意されたことは、『企業の年次有休休暇を全て取得することを目的として、その実現によって育児休業を増加させる』というものだったらしい。
 この報をテレビニュースで聞いた時は唖然とした。開いた口が塞がらないことはまさにこのことをいうのだろう。

 それにしても、『育児休業を増やすこと』=『少子化対策』という発想には驚かされる。これでは、小中学生の学級会議並みだと言っても決して言い過ぎではないと思える。
 育児休業を増やせば、育児しやすくなるのは確かだろうが、そうすることによって発生する問題があることを完全に見落としている。1つの目的を達成することによって、失うものがあることが全く見えていない。つまり、対策を講じた場合のシュミレーションがまるでできていないのである。

 中小企業に勤めている人なら誰でも常識として理解していることだが、現在では年次有休休暇を全て取得することは難しい。と言うより、有休休暇自体が有名無実化しており、病気にでもならない限り、有休休暇は取得できないのが一般的だ。なぜなら、代わりの人員がいないからだ。今時の企業は余剰人員などを抱えている余裕などは無いのだから、これは当然のことだと言える。いつでも代わりの人間がいるという会社があるとすれば、それはリストラも行わずに経営してこれた会社か、余程の高収益企業に限られる。
 善いか悪いかは別として、現代における有休休暇の定義とは、昔のように“余分に与えられた休日”ではなく“欠勤にならないための休日”に変化してしまっている。

 もし仮に全国の中小企業が年次有休休暇を全て取得するようなことになれば、一体どれだけの生産性が落ちることになるだろうか? それだけ生産性が落ちても企業として成り立つのであれば問題ないが、成り立たないのだとすれば、その企業は経営が悪化して倒産の憂き目に会うかもしれない。そうなれば当然、従業員も失業する。職を失って少子化対策になるだろうか? 職を失わなかったとしても、企業の生産性が落ちれば、給料も落とさざるを得ない。収入が下がって少子化対策になるだろうか?
 いくら休日が増えて時間的な余裕が生まれたとしても、精神的な余裕と経済的な余裕が同時に発生しない限り、少子化対策にはならない。会社が傾いては精神的な安定は得られないし、給料が上がらないでは経済的なゆとりも生まれない。その結果、どうなるかと言うと、少子化は更に進んでしまう可能性がある。
 結局、政府の行おうとしていることは、少子化対策ではなく、少子化促進政策になってしまいかねないということだ。政府が国民の税金を使用して、少子化計画を練っていたのでは話にもならない。

 なぜこんな信じられないような政策が臆面もなく出てくるのだろうかと考えると、政策を練っている人達が世間(=社会)を知らないのではないか?という疑問を抱かざるを得ない。有休休暇を全て取得するという発想が真直ぐに出てくること自体、まともな現代社会人の発想とは思えない。率直に言えば、公務員的な発想と言わざるを得ない。公務員であれば、有休休暇を全て取得することは可能かもしれないが、民間企業に勤務するサラリーマンには無理な相談だ。
 確かにサラリーマンであっても有休休暇を自由に取得できる権利はあるし、有休休暇を取得することは悪いことではない。しかし、有休休暇を取得することは国が勝手に義務付けることではない。あくまでも個人の責任の範疇で判断して取得するものだ。国が勝手に民間企業の休日まで決定してしまうのでは、国営企業と変わらなくなってしまう。国が民間企業の経営を統制するなどは時代錯誤も甚だしい。

 『企業の年次有休休暇は全て取得しなければならない』などという法律が出来てしまうと、企業は年次有休休暇日数を減らさざるを得なくなる。そうなると、本当に休暇を取得しなければならない時であっても有休休暇が足りなくなって(=欠勤扱い)しまい、更に収入は下がることになる可能性がある。元々、有名無実な有休休暇が、今度は無名無実なものになってしまいかねない。
 こんな法律が出来て結果的に喜ぶ(=少子化から脱する)のは、公務員だけだろう。政府主導の少子化対策とは結局のところ、“公務員天国”が“公務員極楽天国”になってしまうだけの愚策だと考えるのは私だけではあるまい。

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始めまして。わたしは、法律予備校「伊藤塾」についてのブログを書いている者です。こちらのブログに興味が沸き、トラックバックさせていただきました。迷惑でしたら申し訳ありません。... [続きを読む]

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