BOOK『高度経済成長は復活できる』
現代の日本が不況の真っただ中にあることを疑う人はまずいない。日本が30数年前までは高度経済成長時代だったという事実はもはや、昔話になった感もある。
日本経済は20年程前にはバブル経済を経験したものの、実体を伴わない幻の経済成長(経済膨張)だったため、一般庶民にとっては「景気が良い」というような実感は伴わなかった。つまり、日本はこの30数年間、経済が健全に成長するというような時代が存在しなかったとも言える。生まれてこのかた、“景気が良い”などという実感は持ったこともないという人も多いと思う。(よく考えると私自身も実際にサラリーマンをしていて景気が良いと実感した経験がないかもしれない)
さて、現代の日本にあって、経済の高度成長は可能なのか? この命題に真っ向から論じた書籍を発見した。題名はズバリ『高度経済成長は復活できる』。著者は証券アナリストでもある増田悦佐氏。『国家破綻はありえない』『日本文明・世界最強の秘密 』などを書いている日本経済楽観論者の1人だ。
この本では、一般的に日本の高度経済成長に終止符が打たれた事件と認識されている“石油ショック事件”とほぼ同時期に、水面下である事件が発生したために、日本の高度経済成長が終わったというスタンスをとっている。その事件とは何だったのか? それは、日本に革命家が出現したためだとしており、その革命とは、無論、社会主義革命であり、首謀者はなんと自民党の田中角栄だったという驚くべき仮説を述べている。
田中角栄と言えば、『現代の今太閤』『コンピューター付きブルドーザー』『戦後最大の金権政治家』『戦後最大の名宰相』『官僚を動かすことができた唯一の民主政治家』など、実に様々な評価がなされている。良いか悪いかどちらにせよ、日本で最も巨大な影響力を持った政治家であったことだけは否定できない事実だ。
巷に溢れている田中角栄批判本というと、大抵は金権政治批判に終始しており、あまりにも短絡的なステレオタイプ批判が多いものだが、この本は少し趣きが違う。田中角栄が革命家だったという大胆な仮説を証明するために、数々の説得力のある事例をあげて論じられている。
田中角栄は自ら「反共主義者」と名乗っていたくらいなので、自分自身が日本に社会主義革命を齎した張本人だったなどとは夢にも思っていなかっただろう。そして田中角栄を応援していた人達も、まさか自分達が社会主義革命を推し進めていたことなど夢想だにしなかっただろう。しかし、弱者保護を唱った地方へのバラマキ政治の原型を創り出したことは事実であり、悪循環政治を生んでしまったことは認めざるを得ない。
国民の幸福を願った田中角栄の目的自体は善であったのかもしれないが、結果的には日本経済のダイナミズムを失わせ、日本社会の合理化を歪めてしまったことは否定できない事実ではある。
現代に視点を転じてみれば、霞が関の官僚、永田町の政治家の体たらくぶりは、目に余るものがある。国自体が不正経理を行い、平然と偽装を行い続けてきたことが、徐々に明らかになりつつある。役人自身が国民を欺き、罪を隠蔽することに躍起になっているという、どこぞの共産主義国家も真っ青な国になってしまっていることが判ってきた。多くの国民は、日本がこれほどまでにデタラメな国だったのか?と唖然としており、やり場のない怒りを蓄えつつある。
この本は、そういったやり場のない怒りを抱えた人や、社会学的な知的好奇心を満足させたい人に是非、オススメしたい逸品だ。弱者保護論者という名の利権主義者達を容赦なく徹底的にたたき斬る(=論破する)様は実に心地が良い。
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