« 『文民統制』よりも危険な『情報統制』 | トップページ | 「宝くじ」という名の所得分配ゲーム »

BOOK『和魂米才の発想法』

2008112201 気鋭の金融コンサルタント、木村 剛氏の著書『和魂米才の発想法』を読んでみた。木村氏は竹中プランのブレインの1人であったことでも有名だが、そのせいか、「外資の手先だ」というような誤解をされ、世間の評判はあまり良くないというイメージがある。しかし私は、木村氏を日本を代表するエコノミストの1人だと捉えており、真の経済を見抜く目を持った数少ない論者であると認識している。
 
 本書『和魂米才の発想法』は、現代の日本社会を考察する上で実に示唆に富んだ内容となっている。日本の歪な資本主義を理解するには、まさに打ってつけの書物だとも言える。
 「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一は、武士的精神と商才を合致させた「士魂商才」を説いた。一言で言えば「恒産なくして恒心なし」という意味だが、木村氏は、「武士的精神」を「大和魂」に置き換えて「和魂」とし、お金儲けの才能を外資に学ぶというスタンスを採っている。しかし、単に(最近とみに評判の悪い)外資に学べと言っているわけではなく、日本独自の資本主義(ニッポン・スタンダード)を構築し、現代のルールなきムラ社会を打破せよと述べている。
 
 中でも、「ムラヲサ」の考察が面白い。「共同体を守ることを使命としてきたムラヲサの裏切りで、旧き良き日本資本主義は滅びる」。
 なるほど、これは実に明解な論理だ。ムラヲサの裏切りのために、従業員の不祥事や内部告発というものが数多く出てきたこととも合致している。「ムラの文化が崩壊したがゆえに、新たなルールを構築することが急務だ」というのも、まさにその通りだと思う。

 高度経済成長期の日本社会では、その時代であるがゆえに存在が許された3種の神器(年功序列・終身雇用・企業内組合)なるものが生まれた。しかし、高度成長が維持できなくなると、3種の神器はいとも容易く崩壊し、それまで会社のために滅私奉公してきた社員の士気が一気に失われることになった。「共同体」という名の会社幻想が崩壊すると、それまで“共同体を守る”という精神で動いていた社員達の善なる循環までが崩壊した。それゆえに社員達の士気を維持し続ける新たな“何か”を構築しなければ、日本資本主義の健全なる発展はないと思われる。

 その“何か”を、かつてのように会社が用意する必要はない。むしろ、個人がルールに基づいた哲学を持つことの方が重要だろう。しかしこの国では個人が目立った行動をとると“出る杭は打たれる”ように潰されてしまう。新たなルールを提唱すべき人物が現れたとしても、集団としての既存秩序を守るためだけに無駄なエネルギーが費やされてしまう。
 しかし、現代社会で主役となりつつあるのは“会社という集団”ではなく“働き手としての個人”であるという時代認識を受け入れるべき時代が到来している。“全体の発展が個人を富ます”のではなく、“個人の発展が全体を富ますことに繋がる”という逆転の発想こそが必要だとも言える。そういった新たな価値観を認めてこそ、新たなルールも策定することができるようになる。日本社会でその“何か”を構築するためには、まず、経済観念のコペルニクス的転回こそが必要なのである。
 
 「経営者がムラヲサの役割を放棄し、自分の都合の良いところだけ米国資本主義を取り入れるのはズルい」
 木村氏の口からこのような言葉が出てくることに意外性を感じる人も多いかもしれない。しかし、その意外性を感じること自体が、この本が客観的に書かれたものであることを物語っているとも言える。この本は、現代の日本資本主義を理解する上での必読書とも言える。同時に、現代の日本経済の閉塞感の正体を見破る上でもまたとない恰好の好著と言えるだろう。

にほんブログ村 経済ブログへ

|

« 『文民統制』よりも危険な『情報統制』 | トップページ | 「宝くじ」という名の所得分配ゲーム »

「経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/199859/43189703

この記事へのトラックバック一覧です: BOOK『和魂米才の発想法』:

» 電子タバコ [電子タバコ]
電子タバコが激安です! [続きを読む]

受信: 2008年11月22日 (土) 17時58分

« 『文民統制』よりも危険な『情報統制』 | トップページ | 「宝くじ」という名の所得分配ゲーム »