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不動産業界における矛盾(構造的な不況因子)

2009020701  東証1部上場企業の日本綜合地所が経営破綻した。負債総額は今年最大の1900億円にのぼるらしい。
 日本綜合地所というと、少し前にも『内定取り消し問題』で名を馳せた企業だが、内定を取り消された53名(全内定者)の学生達は今頃どんな心境なのだろうか?

 日本綜合地所が「内定取り消しは悪だ」という世論の声に従って内定取り消しを中止していれば、これらの学生達は補償金100万円を受け取ることもなく、自動的に入社前解雇ということになっていたはずだ。
 今回の日本綜合地所の経営破綻によって、「内定取り消しは悪だ!」とヒステリックに騒いでいた連中(主にマスコミ)も少しは目が覚めたかもしれない。(日本綜合地所には失礼だが)経営破綻することが目に見えている企業に無理に入社したところで何も得るものはなく、返って失うものが多くなるだけだということに気が付いたのかもしれない。

 経営破綻することが判っていながら1人につき100万円もの補償金を支払った日本綜合地所は、「内定取り消しを行った悪徳企業」というよりは、むしろ「良心的な企業」と言えるかもしれない。
 補償金100万円が、新入社員の5ヵ月分の給料と考えれば、慰謝料としては妥当なところであり、これ以上、日本綜合地所に文句を言う学生もいないだろう。
 もし、この期に及んでまだ「文句を言い足りない」「慰謝料100万円では安い」という人がいるのであれば、それは、この時期に上場企業という理由だけで安易(?)に『不動産業』を就職先に選択した学生側の責任も考慮するべきだろう。(この時期に53人もの雇用契約を結んでしまった日本綜合地所側にも“先行きが読めなかった”という意味では少しは責任があるのかもしれないが…)

 日本の不動産業界はアメリカのサブプライムローン問題が発覚する以前から、別の意味での構造的な不況因子を抱えていた。日本で耐震偽装問題が発覚した時点から、既に不動産業界が長期不況に突入するだろうことは目に見えていたことであるからだ。サブプライムローン問題がその不況に追い討ちをかけたことは事実ではあるが、それ以前から大きな問題を抱えていたのである。
 しかしその問題は、不動産業自体にあるわけではない。耐震偽装という不正行為を行なった建設会社があったことが問題なのではなく、耐震偽装を防止するために新たに作成された法律が問題なのだ。その法律(の山)がまるで岩山の如く不動産業の前に立ちはだかっていることが問題なのである。

 予めお断りしておくと、私は耐震偽装を行った不正企業を擁護する気はさらさらない。しかし、誤解を恐れずに敢えて言わせてもらえば、耐震偽装マンションだからといって人が住めないというわけではない。あくまでも定められた震度を超える地震が発生した場合に危険だというだけであって、大きな地震が発生しない限り、普通のマンションとなんら変わらないので、「その条件でもいい」と言う人がいれば、住む人がいてもおかしくないわけだ。
 リスクが高い分、家賃なども安くなるので、「それでも構わない」と言う人は必ず存在すると思う。ちょうど、賞味期限を過ぎた食べ物であっても、腐っていなければ構わないというのと同じ理屈だ。多少の賞味期限が過ぎていても販売価格を半額にすれば有り難く購入する人が大勢いることは誰にも否定できないはずだ。

 経済的な理由などから、木造の旧家屋に住んでいるような人であれば、耐震偽装マンションの方が安全とも言えなくはないので、家賃が安ければ住んでもよいという人は大勢いるだろう。
 『被害にあった時は自己責任』という条件さえ受け入れることができれば、耐震偽装マンションをゴミ(=資産価値0)のように扱う必要もないわけだ。それに、いかに耐震設計されたマンションだとしても、震度8や9の大地震が発生すれば倒壊しないという保証はない。そんな大地震が発生した時には、誰も責任は取れないのだから、法律に定められた震度などは必ずしも『補償』を意味するものとは言えない。想定を超えた大地震が発生すれば、そんな常識は一瞬にして崩れ去ってしまうからだ。

 耐震強度が足りないマンションであろうと、賞味期限を過ぎた食べ物であろうと、市場に流通させれば購入する人間は必ず現れる。しかし「それは危険だ」という一方的な理由で、お役人が介入して規制を行うと、マンションも食べ物も市場価値0のゴミと化してしまう。そのせいで、運悪く耐震偽装マンションを購入した人は売るに売れず、全く身動きが取れなくなる。
 『消費者を保護する』という目的のために安全第一主義に走り過ぎると、結局は目的を達成できなくなってしまう。これは大いなる矛盾であり、不動産業界における構造的な不況因子も、まさにこの矛盾から発生したものだと言える。

 再度、お断りしておくと、私は不正を行った企業に責任が無いと言っているわけではない。当然のことながら、不正は不正として厳罰に処されなければならないと思う。しかし、不正を行っていなかった真面目な企業や一般の消費者にまで迷惑が及ぶような法律は行き過ぎではないか?という疑問を常々抱いている。このことは私だけでなく多くの人が内心思っていることだと思う。
 日本経済が1日も早く不況から脱するためにも、この疑問に対する答えは追求していかなければならない。

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社会問題」カテゴリの記事

コメント

内定取り消しについて、学生の自己責任を求めるのは難しいのではないでしょうか。

学生に日本綜合地所の倒産リスクがそれほど明確に把握できるでしょうか。

やはり、今倒産するような経営状況で内定を53人も出す、日本綜合地所に責任が大きいのではないでしょうか。

まして日本の場合、新卒の価値は非常に大きいのですから。


投稿: takesita2008 | 2009年2月 7日 (土) 07時56分

takesita2008様

コメント、有り難うございます。

「内定取り消しについて、学生の自己責任を求めるのは難しい」というのは、確かにその通りかもしれません。しかし、企業側も不況になることが予測できていなかったのであれば、その企業に対して自己責任を求めるのも難しいと思います。
 もしそれでも、自己責任を追及するべき対象があるとすれば、それは“不況を齎した存在だ”というのが今回の投稿で言いたかったことです。
 
 運悪く、「内定取り消し」という事態に巻き込まれた学生達には同情を禁じ得ません(以前にもそのことについては書きました→http://freedom-7.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-17b7.html)し、日本綜合地所側に責任の一端があることも今回の記事で少し触れました。
 
 学生側も日本綜合地所側も、“予想外の出来事に遭遇した”という意味では、どちらも被害者と言えるのかもしれません。では加害者は誰なのか?ということですが、一言で言えば「不況」です。
 この不況で『内定取り消し』を行った企業は日本綜合地所以外にも数多く存在しています。その中で被害者である学生達に慰謝料を支払ったのは(伝えられているところでは)日本綜合地所しかありません。
 見方によっては、日本綜合地所は“『新卒』という価値を奪い学生を騙した詐欺会社”と受け取れるのかもしれませんが、既に経営破綻した企業に対してこれ以上の責任を追及(例えば100万円では足りないというような意見)しても事態が良くなることは無いと思います。(あくまでも個人的な見解ですが)

投稿: 管理人 | 2009年2月 7日 (土) 17時05分

まったく賛成です 

古い「常識」に引きずられること無く「今求められていること」「状況に適合した価値観」を伝播していくことが重要と仰ってるんですね?

日本は「緊急事態の超法規」ができずに必要以上に犠牲者を生んできた歴史があり ここは米国と対比されますね 90年代金融のFRBの如く

「合成の誤謬」に対する警笛は正義感ある大人しかできませんね 期待しています


投稿: ジゴ郎 | 2009年2月 7日 (土) 18時00分

ジゴ郎様

コメント、有り難うございます。

 現在の日本経済の閉塞感は、まさしく「合成の誤謬」から抜け出すことのできない堅苦しい社会になっていることが原因と言えますね。
 時代に適合しない旧態依然とした価値観にいつまでもしがみつき、それを頑に維持することでしか自分達の存在価値を見いだせなくなってしまった人々が招いた悲劇とも言えます。
 彼らが死守しているものとは、日本の品格などという立派なものではなく、実は自らの保身でしかありません。ここに大きな矛盾、つまり合成の誤謬の発生原因があると言えます。

投稿: 管理人 | 2009年2月 7日 (土) 23時10分

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