プリンターメーカーの経済学
各電機メーカーの今期の決算は、米国金融危機の影響も手伝ってか、ほとんどが赤字決算になってしまったそうだ。液晶テレビやプラズマディスプレイなどの主力商品も安値競争が災いしてか、思ったほど利益が出ない商品と化してしまったようだ。主力商品だけでなく、その他のパソコンやデジタルカメラなどの商品も、新商品の開発に投資した資金を回収するのも難しいというような状況であり、各電機メーカーは抜本的な経営の見直しを余儀無くされている。
いくら経済がグローバル化したとはいえ、際限のない安値競争のみに陥ると、最終的に生き残った企業とて、一度(ひとたび)不況の風が吹けば、その安値競争努力が仇となってしまう。
景気の良い時(需要が旺盛な時)は安値競争によって適正価格を見い出すことができるが、景気の悪い時(需要が消沈している時)に安値競争のみを行っても、適正価格が定まる頃には適正価格を維持するだけで精一杯となり、結局は自分の首を絞めることに繋がってしまう。
現在のような景気の悪い時には、商品を販売する手法にも『知恵』が必要になる。知恵にもいろいろあると思われるが、プリンターの販売形態の中にその知恵の1つを見い出すヒントが隠されているかもしれない。
年々、高性能化するインクジェットプリンターも、その性能とは裏腹に価格は年々下がっている。インクジェットプリンターも他のコンピューター製品と同様に、未だ価格破壊(デフレ化)の真っただ中にあり、最近では1万円を切る複合機プリンターもよく目にするようになってきた。消費者から観ればこれは実に有り難いことではあるのだが、生産者(メーカー)にとっては甚だ迷惑なことかもしれない。
デフレ肯定論で有名な経済評論家の長谷川慶太郎氏はこう言っている。「デフレは消費者に天国、生産者に地獄」だと。まさにその通りだ。
しかし、プリンター製造会社も単に価格破壊の波に身を任せているわけではない。プリンター本体の価格はどんどん低下してはいるが、プリンターのインク価格はほとんど低下していない(品質は向上している)ことは周知の通りだ。言わずと知れたことではあるが、プリンター製造メーカーの利益の源泉はプリンター本体ではなく、プリンターのインクやトナーに依存している。
前回に述べた携帯電話と同様、まさか高性能な複合機プリンターが1台1万円で製造できるなどとは誰も思っていない。人件費が日本の10〜20分の1の中国などの工場で生産すれば採算は取れるのかもしれないが、販売価格が1台1万円程度では利益が出たとしてもたかがしれていると思う。
プリンターには商品本体とは別に“消耗品”というものがあり、携帯電話にも商品本体とは別に“使用料”というものがある。この両者の場合は、本体以外のものに価格を転嫁することができるので、(運良く)安値競争地獄にハマらずに済んでいるという一面がある。
携帯電話にせよ、プリンターにせよ、その販売手法は『損をして得を取れ』方式であり、「高価なハードを安価で提供いたしますから、その代わりにインクやトナーを購入してください」という暗黙のギブ・アンド・テイクモデルだとも言える。(携帯電話の場合は、この販売システムが少し変わってしまったが…)
話は少し外れるが、ここでもし、ある消費者団体(またはお役人)が、「プリンター本体価格に比べてインクの価格は高過ぎる。もっと消耗品の価格を下げて本体価格を上げるべきだ」と述べて規制を行えばどうなるだろうか?
答えは、前回にも述べた通り、プリンターの販売台数が激減し、プリンター製造メーカーは窮地に立たされることになるだろう。日本のプリンター製造メーカーは、プリンターやコピー機の製造・販売がメインであって、携帯電話製造メーカーのように、その事業からいつでも撤退できるというわけではない。ヘタをすると倒産の憂き目に遇う可能性も否定できないので、こんな馬鹿なことを言う人が現れないことを願う。
話を元に戻そう。不況下にあって単に安値競争に身を任せているだけでは、限られたパイの奪い合いにしかならず、全体としてはジリ貧になっていくだけであり、あまりにも知恵が無さ過ぎると思う。
こう書くと、市場原理批判をしているように聞こえるかもしれないが、そうではなくて、ここで批判しているものとは、市場原理ではなくて、人間心理だ。さらに言うなら、市場に振り回されるだけで、市場を利用できない窮屈な精神だ。市場とは人間の心理の方向性によって決定されるものであり、決して、市場が人間に対して向かうべき方向性を与えるものではない。
プリンターメーカーが意識した上で現在のような販売体制を構築したのかどうかは知らないが、メーカーは何か価格を転嫁できるような間接的な付随商品を開発していく方向にシフトしていくべきかもしれない。早い話が、付加価値の創造であり、新たな市場の開拓である。そして、政府やお役人はそういった民間の企業努力を後押しするべきであり、決して邪魔をしてはならない。それが、景気を良くする上で最も大事なことでもある。
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