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「内定取り消し」と「内々定取り消し」の大いなる違い

2009041401 春になり、昨年の『内定取り消し』問題もひとまず落ち着いたかと思いきや、今度は、『内々定取り消し』問題が話題となっている。
 昨年の7月に某不動産会社から内々定をもらっていた福岡市の学生が10月に内々定を取り消されたということで、この不動産会社に対して訴えを起こしていたらしい。この訴えに対する福岡地裁の判決は、「内々定取り消しは違法」とのことで、会社側に75万円の支払いを命じたようだ。

 内定というものは通常、10月1日に出されるものだが、この学生に対する内々定取り消しは、内定式の2日前に行われたらしい。昨年の10月と言えば、急激に景気が冷え込んだ時期(しかも不動産業)でもあるので、企業側としては内定する前に取り消した方が良いと判断したのだろう。しかし、その判断(内々定取り消しならそれほど問題ないという判断)は、無効となってしまったようだ。
 
 この学生の弁護士は今回の判決に対して、「内々定でも労働契約が成立することが指摘された。泣き寝入りしている多くの学生を勇気づける画期的な決定」と評価しているそうだが、「その通りだ!」と言う前に、この会社は正式な採用決定を取り消したわけではないということに注意しよう。これまで問題とされてきた「内定取り消し」とは、“採用することを取り消した”ことを意味していたが、今回のケースは、“内定することを取り消した”ことを意味している。この(大きな)違いに注目する必要がある。
 今回の福岡地裁の判決は、別の言い方をすれば、「内定も内々定も同じものだ」ということを認めてしまったことを意味している。当然、これは初めての判断であったらしいが、この判断が、今後の企業の採用活動に少なからず影響を及ぼすだろうことは間違いないだろう。
 
 しかし、内定や内々定の取り消しが違法となり、賠償金を支払わなければならないということなら、学生側からの一方的な内定辞退や内々定辞退はどうなるのか?という問題もある。学生側が訴訟を起こすのなら、逆に企業側からも訴訟を起こすケースも出てくるかもしれない。
 私も学生時代に就職活動をして何社か内定を辞退したことがあるが、申し訳ないと思う気持ちはあっても、違法になるなどとは夢にも思っていなかった。逆に企業側から内定を取り消された学生がいたとしても、それで訴えを起こしているような人は聞いたことが無かった。まあ、景気の良い時であれば、1人に対して何社からも内定の連絡が来るので、その中の1社から内定を取り消されたからといって、訴える必要が無かったのかもしれないが…。
 
 企業側から見れば、「内定」と「内々定」とは、言葉が示す通り全く別のものだ。面接試験にも、一次面接試験、二次面接試験と段階があるのと同様に、内定にも段階を設けていたわけだが、今回の判決によって、この違いが失われてしまったとも言える。つまり、「内々定」というものが存在しなくなったと言っても過言ではないということだ。
 企業側にとって、「内々定」が無くなるということは、今後、学生に対しては、なかなか内定を出せなくなるということだから、就職活動は更に困難を極めることになるだろう。内々定を出すことに訴訟リスクが伴うのであれば、これは至極当然の帰結であって、今後、学生の就職活動が楽になるということは絶対に有り得ないと思った方がいいだろう。それが多くの学生にとって幸せなことであるかどうかは考えるまでもない。
 
…とは言え、私も転職活動中に、なかなか採用とも不採用とも連絡が来なかったことで、やきもきとした経験がある。連絡が遅れた挙げ句、結局、「不採用」などという誠意のない返事をもらった時などは、落胆とともに多少の憤りも感じたことがある。そう考えると、内々定の取り消しであろうと、誠意のない一方的な取り消しである場合は、訴えられても仕方がないと思う気持ちもある。だから、今回の福岡地裁の判決が、“内々定を取り消したことに対する賠償金”ではなく、“誠意のなかったことに対する慰謝料”であるのなら、致し方がないとは思う。

 この判決によって、今後、企業側は採用活動に慎重にならざるを得ないだろうが、同時に求職者に対しては誠意ある対応を取る方向にシフトしていってもらえればと思う。そして誠意のある企業に対しては、学生側も安易に訴えを起こすようなことはしないという懐の大きい社会になってもらいたいと思う。

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コメント

内々定と内定の差は単に日付の問題です。意図のよくわからない協定のために「内定」という言葉を変えただけで、内々定は採用側も学生側でも内定と同義なのです。
これまでも企業側としても学生側としても内々定と内定には差はないと考えていたのでこの記事はちょっと違うかな、と思います。

内々定という言葉の由来や経緯が本当に内定とそうではない内定?との区別の為であれば今回の判決は危険な物となりかねませんでしたが実際はそうではありません。

投稿: phh | 2010年12月31日 (金) 18時52分

phh様

コメント、有り難うございます。

 私が調べたところでは、内定は、文書にて採用の意思を伝えている場合であり、内々定は、文書ではなく口約束で内定すると伝えている場合ということでした。
 採用内定通知書や入社同意書、誓約書の提出などが既に履行されているのが内定だと捉えれば、明らかに内々定とは違うという結論になると思います。

投稿: 管理人 | 2010年12月31日 (金) 19時58分

いえ
文書を出せないのは協定違反として糾弾されるからです
また入社同意書や誓約書には何の拘束力も無いのであまり期待はしていません

採用基準として
内々定を出す学生に内定を出さないという事はありませんし
内定を出す学生に内内定を出さないといった事もありません

実際に協定が変われば
内々定という慣習はなくなるでしょうね

投稿: phh | 2011年1月 4日 (火) 20時11分

ちょうどこの事件の判旨等を読んだもので、試しに検索したらこの記事を見つけたのですが、賠償に関してですが期待権侵害等でのみの賠償であり、労働契約等での解雇留保に関しては原告棄却であり、若干解釈が誤解されてると思います

投稿: | 2011年1月30日 (日) 01時11分

ちょうどこの事件の判旨等を読んだもので、試しに検索したらこの記事を見つけたのですが、賠償に関してですが期待権侵害等でのみの賠償であり、労働契約等での解雇留保に関しては原告棄却であり、若干解釈が誤解されてると思います

投稿: | 2011年1月30日 (日) 01時11分

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