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『ジリ貧の発想』に陥った書店のコスト削減策

2009071201 先日、よく通っていた郊外型の書店が急に閉店してしまった。私にとっては、会社帰りに車で立ち寄れる便利な書店であったので非常に重宝していたのだが、このところの出版不況の影響もあってか、ついに店を畳んでしまったようだ。
 小さな書店はもとより、郊外型の書店まで潰れるようでは、書店を取り巻く環境は非常に深刻だとも言える。このままいくと、本当に街の書店は姿を消してしまうのではないか?という感じもする。以前から、今後生き残っていくのは、人が多く集まる駅前の書店や巨大なショッピングセンター内にあるような書店、そしてアマゾンのような巨大なインターネット書店のみになってしまうのではないか?と思ってはいたが、その不安は、急速に現実味を帯びてきたようだ。

 さて、今日も別の書店まで足を運んできたのだが、最近の書店に行って気になることが1つある。それは、店員が“万引き(立ち読み)防止専門員”のような立ち居振る舞いになっているというものだ。今日行った書店などは、レジに女性が1人いて、他に2人の男性店員がいたのだが、その2人の男性店員は、黙って突っ立ったままで、鋭い目線で店内を監視していた。客に紛れて万引きを監視している囮捜査官(通称:サクラ)などはいると聞いたことがあるが、店員が「万引きするな」「立ち読みするな」と言わんばかりにあからさまに監視していては逆に客も逃げるのではないか?と思ってしまった。
 
 “売る量を増やそう”とせずに、“万引きされる量を減らそう”という書店側の苦肉の策なのかもしれないが、これでは悪循環に陥ってしまうのではないか?と心配になる。各書店の万引きの被害額がどれくらいのものかは知らないが、こんな後ろ向きの商売を行っていたのでは、自ら売上を縮小させ、自滅していくことに繋がるのではないかと助言の1つもしたくなる。
 最近はどこの企業でもコスト削減を行ってはいるが、書店側が導き出したコスト削減案が『万引き防止によって利益確保』では先が思いやられる。
 
 新刊を万引きして古本屋やオークションで転売するような悪質な客がいることは知っているが、一般客まで犯罪者のような目で監視されたのでは、購買意欲も萎えてしまう。
 通常、本を買う時は、パラパラとページをめくって目次ぐらいは見てから買うものだと思うのだが、こんな警官のような店員がいては、本の中身を確認するどころか、本を手に取るのも憚(はばか)られてしまう。結局、買うべき本も買わずに店を後にしてしまうことになる。(実際に私はそうなってしまった)
 最近はアマゾンなどでも、立ち読み感覚でネット上で数ページは閲覧できるようになってきつつある。これなどは、ネットで購入する(購入を躊躇う)消費者の気持ちをよく掴んでおり、実際に売上アップに貢献しているはずだ。いくら有名で信用のある人物が書いた本であっても、まず目次ぐらいは確認してから買いたいというのが消費者の率直な気持ちだろう。そういった消費者心理までも完全に無視してしまっては、街の書店の唯一の利点(ネットではできない利点)までが失われることになる。
 
 仮に1日に10万円の売上があるとすれば、書店側の利益は2万円程度になる。万引きを防止することによって、利益の2万円は維持できたとしても、売上自体が減ってしまえば、その2万円も維持できなくなってしまう。確かに万引きは書店にとっては大きなマイナスかもしれないが、それを取り締まることだけが目的となってしまっては、本末転倒だと思う。あくまでも本を多く売る努力をした上での万引き防止策でなければ意味がない

 例えばネットなどで売れている本は何か?というようなアンテナを常にはって、市場調査を行っているような書店は、“努力している”ということが店内に入るだけで伝わってくる。本を多く買ってくれる多読家にターゲットを絞ろうと思えば、自らも多読家と同じような心境になる努力をすることが必要だと思う。
 本を万引きするような客に焦点を絞るのではなく、本を多く買ってくれる客を大事にするという心掛けを持つ方がはるかに重要なことだと思う。そういった書店としての当たり前の努力もせずに、万引きの防止だけを考えるようになっては、伸ばせる売上も伸ばすことができずにジリ貧になっていくだけだろう。要するに、万引き防止策というのは、ジリ貧の発想なのである。
 
 今日の男性店員の目を見ていると、どうも《自分の役目は万引き防止だ》と思い込んでいるような気がした。本を売ることが目的ではなく、万引きを防止することが目的になってしまっていることに当の本人が気が付いていないのだとすれば、残念ながらこの書店もそのうち閉店するかもしれないなという冷めた感情を抱いて店を後にしたのだった。

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コメント

こんにちは。
万引きがイタズラ心からなのか、それとも人々が生活に困ってきているからなのか。
お店の利益も減ってきていて、犯罪も増えて、すでに異常事態なのだと思います。もう経営者能力での範疇を越えているのではないでしょうか。

私はお金がないので、本は再販店や図書館を利用しています。

投稿: | 2009年7月13日 (月) 09時43分

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