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『上場維持(利益追求)』と『債権放棄(借金チャラ)』の矛盾

2011052001 民主党の枝野官房長官の「債権放棄発言」【東京電力の債権放棄を金融機関に求めた発言】が物議を醸し、経済界を中心に様々な識者から批判を浴びている。
 東証の社長から「統制国家ではない」というような痛烈な社会主義批判(?)が出たのは意外だったが、日本航空(JAL)の稲盛会長からも次のような苦言が呈された。
 
 「倒産して会社更生法が適用された場合には、法律でもって債権放棄ということはあるが、何にもない中で債権放棄というのは問題
 
 今回の東電問題は非常にレアなケースだとはいえ、稲盛氏の意見は正論だろうと思う。
 
 現在の東京電力が経営上、窮地に立たされていることは間違いなく疑いを入れる余地はない。しかし、倒産したわけではなく、まだ生きている企業である。生きている企業であるということは、今後(数年か数十年後)、支払い能力が復活する可能性が有るということである。その可能性がまだ有る段階で「債権放棄しろ」というのは、明らかに常軌を逸した発言だと言える。
 
 東京電力が完全に支払い能力を無くしたということであれば、国からの命令で「債権放棄」ということも有り得るだろうが、そうでない限り、「債権放棄」を素直に受け入れろと言う方がどうかしていると思う。一方では東京電力の上場を維持し、株主を保護するという立場を採っている政府が、もう一方では金融機関に対して「借金をチャラにしろ」では筋が通らない。こんなことは、少し考えれば中学生でも解る理屈である。
 
 そもそも、政府が(実質的に)東京電力の上場維持を保証しているということは、営利企業として存続することを認めているということである。つまり、その企業は支払い能力を有しているということである。それにも拘らず、もはや支払い能力が無いかのように「債権放棄しろ」では、明らかに矛盾しており、独裁政治と批判されても仕方がないと言える。
 「借金を返すのは少し待ってくれ」と言うならまだ理解できるが、「借金はチャラにしてくれ」と言うのであれば、東京電力を非営利企業にしなければ筋が通らないということである。

 人間に喩えて言うなら、「重病で病院に入院した患者は借金を返す能力が無いので、借金はチャラにしなければならない」と言っているようなものだ。しかし、その重病患者も病が治癒し無事に退院できれば借金を返す能力が復活する。退院することを前提に治療している患者の借金をチャラにするなどということは常識的には有り得ないと考えるべきだ。

 今回の枝野氏の発言は、資本主義国家はどうあるべきかというような思想信条的な問題ではなく、単に“筋が通らない”ということが問題になっているわけだ。
 
 こういった経済界からの(筋の通った)批判に対して枝野氏はこう反論している。
 
 「国としても一定の支援を行う限りにおいては、東京電力が普通の民間企業と違うのは当然だ。国民的な理解が得られなければ東京電力を支援することはできない
 
 本人が意識しているのかどうかは定かではないが、これでは完全に社会主義者の意見になってしまっている。
 東京電力を救済するのは国民であって、政府ではない。政府は単なる仲介役であって、自ら自腹を切って東電を救済する能力があるわけではない。国民に対して納得のできる東電救済案を提示し、了承を得た上で政策を実行するのが政治家の仕事であり、まともな民主主義国家の有り様だ。どのような救済案が浮上したとしても、救済を行う主役はあくまでも国民だという認識が欠落してしまっている。
 仮にも「民主」を名乗る政党が、民主主義の基本も理解していないということであれば、それこそ大きな問題だ。

 「民主」や「民意」と言っても、衆愚政治に陥ってしまうと意味が無いので、時には強権的に政策を実行する必要もあるかもしれないが、元々、衆愚政に陥っている民主党が強権を行使すれば、ただの独裁政治になってしまいかねない。実際に最近の民主党の動きを観ていると、ポピュリズムを通し越して、(左寄りの)ファシズムに傾倒しているように思われる。

 ところで、最近、「東電の株主責任」という言葉をよく耳にするが、既に東京電力の株主はほぼ100%の人が大損している。東日本大震災が発生する前は2000円以上だった株価が現在400円以下(額面割れ)まで暴落しているわけだから、株券の価値は5分の1になっている。株主数もおそらく5分の1以下になっているだろうから、既に多くの株主が株主責任を果たした状態だとも言える。
 そんな状態にありながら、「株主保護」というのはよく解らない。現在の株価で満足しているような株主はいない(震災後にマネーゲームで売買している投機家は別)だろうし、少なくとも今後数年間は値上がりも配当も期待できないのだから、今更、保護されたところで「助かった」ということにはならないのではないかと思う。
 今現在の東電株主というのは、余程の楽観家か余剰資金を抱えた長期投資家か、あるいは何らかの理由で損切りできずにいる人ぐらいだろうと思う。
 と考えると、「株主保護」というのはブラフで、保護したいものは別にあるのではないかと勘ぐりたくもなる。
 
 現在の状況下で政府が東電の上場廃止を臭わすような発言を行えば、株価は2桁か、場合によっては1桁まで急落する可能性が有る。しかし元々、国策銘柄であることに助けられて、上場を維持するという雰囲気が漂っているために、かろうじて3桁株価を維持できているわけだ。
 予期せぬリスクが顕在化したとはいえ、倒産リスクや上場廃止リスクだけは、ほぼゼロという電力会社の常識だけは未だ維持されている。
 その“常識”が維持されているがゆえに、「債権放棄しろ」は有り得ないし、筋が通らないのである。
 
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