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公務員限定のメンタルヘルス対策

2011102601 少し前に「たばこ一箱700円台までは上げたい」と言って物議を醸した民主党の小宮山洋子厚生労働相が、今度は労働安全衛生法の改正案『メンタルヘルス対策の義務化』を労働政策審議会に諮問したらしく、このままいくと来年の秋には施行される見通しだ。
 
 改正案の内容は、『事業者に対し医師などによる従業員のメンタルヘルス(心の健康)チェックを義務付ける』というもので、具体的には、全従業員の精神状態を事業者が把握することが義務付けられる。詳細は以下のようなものであるらしい。
 
 1、従業員は希望すれば医師の面接指導を受けられる。
 2、事業者は面接指導を申し出た従業員に対し不利益な扱いをしてはならない。
 3、医師の意見を聞いた上で、必要であれば勤務時間の短縮や職場の配置転換
   などの改善策を取ることが求められる。
 4、職場の全面禁煙か空間分煙を事業者に義務付ける。

 
 これらを見る限りでは、過剰なまでの労働者寄りの改正案だと言える。正直、ブラック企業が対象の法案かと思ってしまった。
 
 いくら、ストレスによる精神病(うつ病など)が増加しているとはいえ、現在のような厳しい経済環境下で、このような過保護なストレス対策を実際に行えるような企業がはたしてどれだけ有るのかは甚だ疑問である。理想的な職場環境を求めるのは結構なことだが、普通の民間企業に勤めている人の感覚では、「有り得ない」というのが正直なところだろうと思う。
 
 例えば、1の場合、医師に対する診察費は誰が支払うのだろうか? もし事業者が全額支払わなければならないということであれば、その従業員はリストラの対象になってしまうかもしれない。
 
 2の場合も、従業員に不利益な扱いはしないとしても、事業者は明らかに不利益を被ることになる。もし、仮病の疑いがあるような従業員が、何度も面接に行くようなことになっても何も文句を言えないということであれば、それこそ、事業者はその人物の解雇を考えるだろう。
 
 3も同様で、勤務時間の短縮や配置転換ができなければ、即、解雇になってしまう可能性は極めて高いと思う。
 「勤務時間の短縮」というのが、「残業時間の短縮」を意味しているならまだ理解できるが、これが通常の勤務時間(例:8時間勤務)を意味しているのであれば、あまりにも非現実的だと思える。「配置転換」というのも、余剰人員を抱えた大企業ならともかく、元々、少数精鋭の中小企業では簡単にできるものではなく、実際の労働環境を無視した理想論としか思えない。

 4は小宮山氏なりのご愛嬌といったところだろうか。
 
 そもそも企業というのは介護施設ではなく慈善事業を行っているわけでもない。仮にその職場にいることが鬱病の原因であるのであれば、病気の治療をするよりも会社を辞めた方がよい場合もある。鬱病のまま働くことを前提にした法改正よりも、辞職後の治療を前提とした法改正を行った方がよいかもしれない。
 
 この改正案には、「従業員に対して不利益な扱いはしてはならない」という約束ごとが明記されているので、「それなら安心だ」と思う人がいるかもしれないが、それは考えが甘過ぎるというものだ。従業員に対して不利益な扱いをしてはならないのであれば、事業者は初めから不健康そうな人や、やる気の無さそうな人は雇わないような防衛策を講じるだけの話である。
 労働者に対して大甘な法律ができればできるほど、“労働者を保護する”という目的に反して、正規雇用者の比率はどんどん減少していくことになり、彼らが望むところの理想的な労働環境はますます悪くなっていく。「地獄への道は善意で舗装されている」とはよく言ったものだ。
 
 ハッキリ言ってしまうと、今回の法改正が実施された場合、労働安全衛生法がまともに機能するのは公務員の世界だけだろうと思う。公務員だけがストレスを理由に休日が増加し、民間のサラリーマンは更にストレスが溜まることになる。これではまさに、「公務員の公務員による公務員のための法改正」である。先程の言葉を裏返して言えば、「公務員天国への道は善意で舗装されている」と言ったところだろうか。
 
 小宮山氏の改正案に対して厚生労働省は「東日本大震災を契機にメンタルヘルスが不調に陥る人の増加が懸念され、予防対策を充実させる必要がある」と述べているそうだが、被災者のストレスと労働者のストレスを同列に考える必要があるのだろうか? 被災者のストレス軽減に努めるのは理解できるが、なぜ都合よく労働者にまで適用の範囲を拡大しなければならないのだろうか?
 
 「ストレス社会であるから、医師によるメンタルサービスが必要だ」というのは、ただの結果論対策(対症療法)である。ストレス社会であるなら、そのストレスの原因を追究し、ストレスが元から軽減される社会を目指すことの方が重要であるはずだ。
 多くの労働者が抱えるストレスの原因は、“現在のままだと将来が不安”というものであり、政府の政策も少なからず関与しているものと思われる。
 景気が悪くなるような政策ばかりを行っているように見える民主党政治自体が、多くの労働者のストレスの原因になっているかもしれないということも併せて考えるべきだろう。
 
 「政策が失敗して不況を招けば、医師によるメンタルサービスが必要だ」と言うのでは本末転倒であり、不況であるなら、その不況の原因を追究し、不況にならない社会を目指すこと(=まともな経済政策を実行すること)こそが、実は労働者のストレスを軽減すること(=メンタルヘルス)になるのである。

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