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消費者心理から乖離したタクシー料金

2011112101_2 世間ではもうすぐ忘年会のシーズンを迎える。この時期に「忘年会特需」という稼ぎ時を迎える業界と言えば、飲食店(居酒屋)業界が有名だが、おこぼれ的に特需が舞い込む業界がある。それは、タクシー業界である。
 
 最近は、安価な居酒屋も多くなり、忘年会自体も明朗会計で済む場合が多いと思われるが、その反面、タクシーでの利用料金は全く変わっていない…と言うより、逆に値上がりしているとも言える。
 現在のタクシーの初乗り料金は地域によって少し異なるが、東京の場合は710円、大阪の場合は660円である。詳細を述べると以下のようになっている。
 
 (東京)2000mまで710円
     以後288mごとに90円加算

 (大阪)2000mまで660円
     以後273mごとに80円加算

 私の場合、普段はマイカー通勤をしているが、飲んで帰る日は、往きはバスと電車、帰りは電車とタクシーを利用することにしている。最寄りの駅から自宅までの距離が3km以上あるので、夜間割り増し料金も追加され、タクシー代は1000円以上必要になる。
 
 一頃(2002年頃)、タクシー業界にも規制緩和の波が押し寄せ、タクシー乗務員から悲鳴の声が上がったことがある。規制緩和によってタクシーが増え過ぎたせいで、「儲けにならない」という悲鳴がよく聞かれた。
 しかし、その後(2008年)、再度、規制を行うことで少し落ち着きを取り戻した(悲鳴が聞こえなくなった)ことは周知の通りである。
 
 規制緩和によって、タクシー新規参入者が激増してタクシー台数が需要を大きく上回れば、当然、タクシー1台当たりのお客数が減少し、結果的にはタクシー乗務員の収入減に繋がる。これは子供でも解る理屈である。その理屈は理解できるのだが、はたして当時、タクシー運賃はどれだけ下がったのだろうか? 初乗り運賃が現在の半額程度(300円台)まで下がったというような話は聞いたことがない。
 
 料金がそのままでタクシー台数が増えれば、タクシー乗務員1人当たりの取り分が減少する(タクシー会社は、基本的には歩合給)のは当たり前の話だ。
 しかし、それはあくまでも利用者(=需要)の増減を考えない場合の話である。

 この問題の本質は、タクシー乗務員が増えたことだけにあるのではなく、タクシー利用客が増えなかったことにもあると考えられる。ではなぜタクシー利用客は増えなかったのか? それはサービス(利用料金)が変化しなかったからだ。つまり、『料金を下げれば、利用客が増える』という市場のメカニズムを活かすことができなかったところにもタクシー規制緩和問題の本質が隠されているということである。
 
 タクシーの利用料金が下がれば、当然、利用客は増加する。初乗り運賃が半額にでもなれば、それまでバスを利用していた人がタクシーを利用するということも十二分に有り得る。駅から自宅まで2km以内でバスを利用している人であれば、バス代が250円、タクシー代が350円と考えると、差額は100円程度なので、帰りはタクシーを利用しようと考える人は結構いるのではないかと思う。
 
 現在の牛丼店の安値競争の如く、適正料金というものを超えて、料金が際限無く下がり続けるというのは問題だと思うが、ある一定までは料金を下げないことには、利用客の増加には結び付かない。料金を下げずにタクシー台数だけが増加すれば、どう転んでも「規制緩和は悪」というロジックに成らざるを得ない。なぜなら、そこには端から市場を形成する“消費者心理”という重大な要素が抜け落ちているからだ。
 
 規制緩和が経済政策となるためには、参入障壁を下げるだけでなく、セットで利用料金も下げなければ意味がない。規制を緩めるだけでは不充分で、サービスの向上も併せて行わない限り良い結果には繋がらない。片方だけ下げて、片方はそのままでは、市場原理が全く機能しない(=消費者心理が変化しない)ので、不完全な規制緩和になるのは当然の帰結である。

 仕組みだけを変えて、サービスはそのまんまというような中途半端な規制緩和なら初めからやらない方がましだったというのが、一連のタクシー規制緩和問題の顛末だったと言える。先程述べた通り、規制緩和が経済政策になっていなかった、つまり、絵に描いた餅でしかなかったというわけだ。

 当時、「規制緩和したからタクシー業界が不況になった」というようなことを吹聴している評論家が大勢いたと思うが、こんなのは的外れもいいところで、正しくは、「規制緩和したが、サービスがほとんど変化しなかったので業界が不況になってしまった」とするべきであり、決して、規制緩和が失敗したというような単純の話ではなかったのである。
 
 現在のタクシー利用料金は、どう考えても高いというのが一般消費者の実感であり、お世辞にも、消費者が求めているサービスになっているとは言い難い。これは誰もが認めるところだろうと思う。
 規制に頼ってタクシー台数を減らす努力をする以前に、利用客を増やす努力が足りていなかったのではないか?というのが率直な感想である。
 『タクシーが増えれば、収入が減る』という後ろ向きな発想を、『料金を下げれば、利用客が増える』という前向きな思考に切り替える必要もあったのではないかと思う。
 無論、料金を下げたからといって、必ず良い結果が出るというわけではないが、チャレンジする価値は有ったはずである。

 なぜか、少し前に書いた映画館の話と同じような結論になってしまったが、結局のところ双方に共通するのは「消費者の方を向いてこなかった」ということなのかもしれない。

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