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シャープのリストラ考【計画経営の終わり】

2012082501 経営の悪化で5000人のリストラを発表していたシャープが新たなリストラ策を追加発表した。中国とメキシコのテレビ組立工場(従業員も含む)を提携先の鴻海精密工業(台湾)に売却することになり、合計8000人規模の人員削減となるらしい。国内の削減は3000人ということなので、海外は計5000人削減ということになる。
 シャープの国内外の従業員数は57000人(その内、シャープ単体の従業員数は21000人)程度なので、現状では約14%の人員削減になるわけだが、パーセンテージで言えば、先のソニーやパナソニックを超えている。

 ソニーやパナソニックのリストラ発表時にも少し触れたことだが、こういったハードランディング的な経営悪化によって大幅な人員削減を行わなければならない理由は、世界的(主にアジア)な安値競争の激化だけでなく、硬直した日本企業の給料制度にもその原因を求めることができる。
 “仕事量と利益が不安定なのに、給料だけが安定している”という経営上、最大の矛盾を放置したままで歪な経営再建策を練っているというのが現代日本の大手赤字企業の姿だと言える。
 相継ぐ大手企業の人員削減によって、日本の終身雇用神話は崩壊していることが明らかとなったが、もう1つの神話だけは未だに生きている。

 給料が安定して支給されるためには、仕事量も安定していなければならず、支払う給料よりも利益が上回っていなければならない。もしくは、赤字を補うだけの蓄え(内部留保)や資産運用益が無ければならない。これは、企業であれ家庭であれ、経済活動の常識であり、端的に言うなら「無い袖は振れない」ということである。しかし、この当たり前の常識が通用しないのが日本企業(主に大企業)の難儀な所である。

 “仕事量と利益が不安定なのに、給料だけが安定している”という子供が考えても理解できるような非常識な経営には目もくれず、ただひたすらに人員削減によってのみ帳尻を合わせようとする。その歪な再建策による悪影響は当然、下請け企業や関連企業にも及ぶことになり、行き過ぎたコスト削減の悪循環を齎し、場合によっては経営破綻を余儀無くされる企業や、失業者の山を築いていくことになる。…と書くと、なにやら共産党や労働左翼のように思われるかもしれないが、本記事の目的は大企業批判ではないので、誤解のないように。

 本来、蓄えのない借金経営の企業が大幅な赤字に転落した場合、赤字の穴埋めの為に人件費を削減することは止むを得ないことだが、平均年収(シャープの場合、約700万円)にはほとんど手を付けずに人件費(人員)のみを削るというのは、どう考えても不自然であり可笑しいと思う。
 無論、それだけの報酬を得るに足るだけの仕事をこなしている人は別だが、「パレートの法則」を持ち出すまでもなく、大抵の従業員は元々、給料分に見合うだけの仕事は行っていないのだから、少なくとも大幅な赤字経営の間は給料も大幅に減額するべきなのである。それができないために、いきなり大幅な人員削減ということになってしまうわけだ。

 大体、この世界的なデフレ経済下で、平均年収700万円も稼ぐということがどれだけ大変なことなのかをよく考える必要がある。日本でしか製造できない付加価値の高い製品を供給しているということなら高収入も頷けるが、そうでない場合、平均年収700万円などというのは(海外メーカーと比較すれば)非常にべらぼうな平均値だということを知る必要がある。

 とはいえ、日本の企業が順序だったまともなリストラ策(給料減額)を採ることができないのは、個別の企業が悪いと言うよりも、自由度の高い融通性のある経営ができない日本社会の問題だとも言える。
 現代という時代は、ソニー、パナソニック、シャープを見るまでもなく、計画的に会社経営を行うことが不可能な時代であり、どのような安定企業であっても数年先にはどうなるか分からないような変化の激しい時代である。そんな時代にあって、未だに前世紀に流行った計画経済から脱皮しようとせずに、あくまでも計画的な雇用・給料システムを維持することだけを良しとする空気がこの国を支配しているかに見える。

 幸か不幸か、現代は“勤務時間の長短”も“給料の高低”も“休日の多寡”も“賞与の有無”も、もはや計画的に運用できる時代では無くなっているのである。
 昔、「モデル賃金」という言葉をよく耳にしたが、これも現代では通用しなくなっている。家族の構成自体も現代ではバラバラで統一されていないのだから、30歳だから年収○○○万円、40歳だから年収○○○万円というような「モデル賃金」もあまり意味をなさなくなっている。「未婚の人」と「結婚して子供が3人いる」というような人を比較すれば、年間に必要となる生活費は全く違ってくる。良い悪いは別として、昔のように、誰もが結婚して子供を産み、平均的な人生を歩むという時代ではなくなっているため、「年収をモデル化(=計画化)すること」が無意味化しているのである。

 誤解を恐れずに言えば、現代のような時代は、全員が全員決まって8時間働く必要もなければ、単位時間当たりの給料の上限や下限も決める必要がないと思う。よく最低時間給というものが話題になるが、時給500円でも働きたいという人がいるなら、それで構わないと思う。
 「他人の半分しか仕事をしませんので、給料も半分でいいです」というような人や「余剰資金が有るので、社会勉強のために時給500円で働かせてください」というような人がいたとしても不思議ではない。しかし、最低時間給などというものを国が勝手に決めてしまうと労働者の選択肢が狭められてしまうため、自由度の高い勤務を求めている人は、自動的に排除されることになり、返って不自由な労働環境が整備されることになってしまう。
 現代の日本の労働環境というのもこれをスケールアップしたようなもので、何から何まで計画的に決められてしまっているため、極めて不合理かつ非効率な労働環境が整備されてしまっているように思える。今回、シャープが大幅な人員削減に至った理由も、そうせざるを得ない不自由な労働環境が整備されてしまっているからだとも言える。

 結論を一言で述べるとすれば、「民間企業に公務員的な給料体系は適用できない」ということである。元々、計画的な給料体系などというものは、公務員社会の専売特許であり、民間企業には向いていないのである。つまりは、前世紀における日本の民間企業はほとんど公務員と同じだったということであり、「一億総公務員思考」が蔓延したことにより、非常識な経営が常態化してしまったのである。この間違った常識を非常識だとする空気が一般化しない限り、日本企業の無用な人員削減は延々と続いていくことになるだろうし、日本の労働者は身も心も不自由な労働環境から脱することはできない。まさに計画経済(計画経営)の失敗から齎された悪夢である。

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「経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

企業が人件費削減を行わない、賃金の切り下げを行わないことを問題視されていますが、その元凶となっているのはr労働基準法およびその判例ではないですか。
よく調べてからものを言ってください。

会社側の勝手な賃金切り下げは判例上禁止となっていますし、労働組合が会社側の切り下げ協議に応じないのが実態で、企業としては非常に苦慮しています。

その点を調べずに公の場での発言はいかがなものかと思います。

投稿: メーカー | 2012年8月25日 (土) 22時29分

メーカー様

 コメント、有り難うございます。

 私は、個別の企業を批判しているのではなく、「不自由な労働環境が整備されている」ことが問題だと書きました。
 敢えて具体的な名指しはしませんでしたが、その中には当然、「労働基準法」も「労働組合」も入っています。
 右肩上がりの経済成長期に、そういった「計画」を主体とする法律や組織が出来上がってしまったことが元凶というのは、おっしゃる通りです。

投稿: 管理人 | 2012年8月26日 (日) 08時42分

>支払う給料よりも利益が上回っていなければならない。

>給料分に見合うだけの仕事は行っていないのだから、

労働者は消費者でもあり、消費の原資は給料なのだから、給料分の働きをしたところで生産された商品は余るんですよ。
たとえば、100円の給料を払って120円の商品を生産した場合、差額の20円を損失し、負担する外部の存在がいない限り、商品は消費されないわけです。
100人いれば100人全員が買うという素晴らしい商品を生産しても、企業はそれを購入させるお金を世の中に使っていないので、労働者の仕事が完璧でも意味がないんです。
120円の商品を生産したら、それを消費するための120円がないと売れない、というのは当たり前のことですが、それじゃあ民間企業の支払う給料では足りないんですね。
民間企業が存続しようとすればするほど、その弊害として失業者が出てくるのですが、消費に足りない分を外貨獲得で補える強さがあれば、少なくとも国内の失業は減らせます。
給料を増やせない、解雇をしなければならないというのは、国際競争力が欠如しているってことでもあります。

投稿: クロコダイルPOP | 2012年9月26日 (水) 05時16分

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