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「本を読まなくなった」というけれど

2015060601■全国13900店舗まで減少したリアル書店

 最近、また1つ、馴染みの郊外型書店が閉店した。自宅から車で通っている郊外型の単独書店は3店舗まで減少していたが、ついに残り2店舗となってしまい、時代の移り変わりの激しさを改めて感じさせられた。
 私の場合、リアル書店の応援のためにも、なるべく本はリアル書店で購入するように努めているのだが、残念ながら、1個人の微々たる努力など、なんの助けにもならなかったということを思い知らされる格好となってしまった。

 現代の日本で増え続けているものとしては、歯科医院・薬局・コンビニの3つが有名だが、逆に書店の数は減少する一方で、2014年の統計データでまとめてみると、それぞれ次のようになっている。(大凡の数字)

 歯科医院 68000
 薬  局 55000
 コンビニ 51000
 書  店 13900

 実際に身の周りで起こっている書店の減少ぶりについて自分なりの考えをブログ記事として書こうと思ったが、その前に何か参考になる本はないかと物色し、ちょうどピッタリの本があったので購入して読んでみた。

 『「本が売れない」というけれど』(永江 朗著)

 著者の永江氏は書店員経験のあるフリーライターとのことで、一般の人があまり知らない業界通の意見もいろいろと書かれてあり、興味深く読むことができた。

 本書にも、2000年には21000店舗以上あった全国の書店が、現在では14000店舗まで減少したと書かれていた。最近は、本の初版部数も減り、大抵の本は3000部から6000部しか発行されないとのことで、多い場合でも1万部しか発行されないらしい(それでも4割は返品される)。
 1万部発行した本ですら、1冊ずつ配本しても14000店舗の書店全てには行き渡らない。確かにこれは言われてみれば、その通りであり、目からウロコだった。
 よく、「小さな本屋は市場調査ができていない」とか「売れ筋の本がわかっていない」などと言われることがあるが、小さな本屋には、仕入れようにも仕入れられない物理的な事情もあったというわけだ。

■「読書ばなれ」は本当か?

 ここ数年、毎年7万点以上も出版されている書籍だが、書籍の売上はこの17年間で4割も減少しているらしい。しかしその代わりと言うべきか、発行点数は2倍に増えている。1980年代なかばの年間発行点数は3万5000点程度だったが、2013年の年間発行点数は7万8000点を超えており、実際に2倍以上に増えている。
 売上は4割減っているが発行点数は2倍以上になっている。そのため、作家も編集者も2倍の仕事量をこなさなければいけなくなった。1年に1冊書いていた作家は、1年に2冊書かなければならなくなり、1ヶ月に1冊のペースで本を出版していた編集者は1ヶ月に2冊の本を出版しなければいけなくなった。

 なぜそのような状況になってしまったのか? その答えになる様々な原因が本書では述べられているが、著者曰く、「読書ばなれは起こっていない」「読書ばなれの実態は出版不況であり、出版不況のおおもとは雑誌不況だ」とのこと。
 雑誌の広告収入が出版界を支えてきた。その雑誌(漫画雑誌やコミックも含まれる)が売れなくなったことが、出版不況の最たる原因であるということらしい。
 では、雑誌を含めて、新刊が売れなくなったのはなぜか? 「読書ばなれ」は起こっていないのに、なぜ新刊が売れないのか? そこに1990年に誕生したブックオフ、1999年に始まったヤフオク!、2000年に登場したアマゾンなどの存在が絡んでくる。

 確かに、ブックオフやヤフオク!やアマゾンの存在が書店で本が売れなくなった大きな理由ではあるのだろうと思う。しかし、数え挙げると他にもいろいろと原因があることは素人目にも分かる。
 例えば、大抵のネット喫茶では時間制でコミックや雑誌は読み放題だし、レンタルDVD店でもコミックレンタルがある。そのどちらも、商品を手に入れることはできないが、購入するよりは安価な料金で利用できる。単に読むという目的を果たすだけなら、商品を購入せずともよい時代になってしまったとも言える。
 お金を支払って読むならまだしも、ブックオフなどの古本屋にいたっては、客寄せのためか、事実上、中古コミックは無料で立ち読みし放題になっている状態だ。(個人的には、この状態はあまり好ましいものだとは思わないが)

 そして忘れてはならないのが図書館だ。これも本書に書かれていたが、公立図書館は書店とは裏腹に増加している。2000年に2639館だったものが2013年には3248館となり、実に23%も増加している。そして、現在の図書館の年間貸し出し冊数は、驚くなかれ、書店の推定販売部数を超えているらしい。書店の年間販売部数は7億冊に満たないが、図書館のそれは7億冊を超えている。(個人的には、この状態もあまり好ましいものだとは思わないが)

 付け加えると、上記で述べた表向きの理由だけではなく、商品をコピーして読むという違法性のある手段で本(デジタルデータ)を読んでいる人もいる。昔は少年ジャンプを回し読みするという学生が多くいたが、現代では自炊したコミックを回し読みしているというような人もいることだろう。(個人的には、この状態は絶対に好ましいものだとは思わないが)

 現代ではよほどのマニアかファンでもない限り、買ったコミックをコレクションし続けるということは少なくなった。大抵の漫画や雑誌は1度読めば、もう読まない。昔なら、いらなくなった本は廃品回収に出す場合が多かったが、現代では、古本屋に売ることもできれば、オークションで売ることもできる。逆に言えば、いつでも買い直すことができる。著者も述べられていたが、本は“所有するもの”ではなく“体験・消費するもの”に変わってしまったので、必ずしも買う必要がなくなった、この変化が大きい。

 昔は書店で買うという手段しかなかったものが、現代では、様々な方法で入手、または利用できるようになってしまったので、「買う」という選択肢そのものが自ずと縮小してしまった。「買う」という選択肢が選択されない限り、統計上「本は読んでいない」となってしまうので、「本を読まなくなった」というような摩訶不思議な情報が流布されることになる。

■現代の本屋は「薄利多売」ならぬ「薄利少売」

 著者は、もともと本屋は薄利多売のビジネスモデルだが、現在は薄利多売の「多売」の部分の手間が倍になったので、本屋の粗利を上げるべきだと提唱されている。現在の本屋の粗利(マージン)は22%なので、これを35%まで引き上げるのが好ましいとのこと。これは著者の意見というよりは、本屋さんの意見でもあるらしい。

 実際に、本の値段を2倍以上にして成功した出版社もあるらしい。例えば、筑摩書房のちくま学芸文庫は、高額な設定で有名らしいが、私もたまたま数ヶ月前にちくま学芸文庫の『入門経済思想史 世俗の思想家達』(ロバート・L・ハイルブローナー著)という本を購入した(もちろんリアル書店で購入)。500ページを超える文庫本とはいえ、値段は1500円。この本の場合、結果的に内容が良かったので高いとは思わなかったが、普通の文庫本で1500円は高く感じるだろうと思う。

 定価1000円の本の場合、本屋の粗利が220円、取次が80円、出版社が700円(印税100円、紙代、印刷代、製本代、出版会社の編集者や社員の給料、光熱費etc.)が現在の内訳であるらしいので、粗利を35%にするということは、本の値段を1割以上げなければならなくなる。しかし、1割程度上げるだけで、街の本屋の減少に歯止めをかけることができるのであれば、別に上げてもいいのではないかと思う。正直なところ、1割だけで済むとは思えないが…。

■現代人は「情報を読むようになった」

 「本を読まなくなった」というけれど、実際に多くの人が「文字」に触れる機会は増えている。本という紙でできた媒体や、提供するサービスも手に入れる手段も分散化したために「本を読まなくなった」というだけであり、現代人のインプットする情報量は確実に増えている。マンガを例にしても、漫画を提供する漫画家(アマチュアも含む)の数も増加している。昔のような同人誌だけでなく、現代ではデジタルデータで配本することもできるので、無名の漫画家予備軍(志望者)は昔とは比べ物にならないほど増えていると思う。最も増えているのは商業誌(いわゆるエロ本)系の漫画家かもしれないが…。

 毎年8万冊という膨大な数の書籍(漫画等も含む)が販売されるが、その多くは短期間で店頭から姿を消していく。そういった人目に触れることなく返品されるような多くの書籍も、現代では幸か不幸か、再度、人目に触れて脚光を浴びる可能性が出てきたとも言える。書店で販売されている新刊本よりも、ブックオフで販売されている中古本の方が品数は圧倒的に豊富であり、書店では出会えなかった魅力的な本に出会えることもある。

 結局、失敗すると言われていたアマゾンが大成功した理由は、圧倒的に豊富な本との出会いを読者に提供できたことにあると言える。
 吉野家のキャッチフレーズ「早い・安い・うまい」を書店に準えると、「早い・安い・豊富」になる。この「早い・安い・豊富」を消費者が求める優先順位で並べかえると「豊富・安い・早い」となるだろうか。リアル書店は「早い」のみしか満たせなかったが、ブックオフは「安い」を満たし、アマゾンは「豊富」を満たしたと考えれば分かり易いかもしれない。

 品数豊富な新刊も古本も扱ったマンモス書店の存在は、情報化社会に多くの人々が希求するべきサービスだった。その「豊富・安い・早い」のサービスを既存書店に先んじて提供することができたことがアマゾンが成功した単純な理由なのだろう。

 「情報を制する者は世界を制す」という言葉があるが、本は情報を提供する1媒体に過ぎなかった。現代人は「本を読まなくなった」かもしれないが、それは「情報を読まなくなった」ことを意味しなかった。日々、洪水の如き情報が飛び交っている情報化社会において、情報をインプットしたいという需要は増えることがあっても減ることはない。「本を読まなくなった」という事実は、単に情報を得るツールが増えたことを証明しているに過ぎない。

 最後に、リアル書店が今後も情報を提供する1媒体(ニッチな産業)として生き続けることを願わずにはいられない。できれば、複数の書店が共同して、超大型リアル書店を1地域(市)に1つ作ってくれれば有り難いのだが…。

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コメント

こちらで示された売上は、アマゾンなどのネットによる販売も含まれているのでしょうか?

投稿: | 2015年6月 8日 (月) 13時29分

拝読。

記事は価値的に間違ってますね。

図書館が増えるのは悪いことでしょうか?市民が知的財産にアクセスしやすくなりのはいいことなのではないですか?

「商品をコピーして読むという違法性のある手段で本(デジタルデータ)」とありますが、私的利用なら問題ないのでは?(「自炊したコミックを回し読み」は違法。コピーではなく回し読みが問題)

個人的には本の情報基地でもある本屋さんの繁盛を祈っていますが。

投稿: 清高 | 2015年6月 8日 (月) 19時38分

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