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「最低賃金1500円」は格差拡大政策

■最低賃金を上げると格差は拡大する

 多くの人は最低賃金を1500円にすると格差は縮まると思っているのかもしれないが、最低賃金が1500円になって起こることは「格差の拡大」である。これだけは絶対に避けられない理由を誤解を恐れずに率直に書いてみようと思う。

 「最低賃金を1500円にしろ!」と叫んでいる人々の中には、大きく分けると2種類のタイプの人が混在している。

 1つは、時給1500円以上の仕事ができる人

 もう1つは、時給1500円以下の仕事しかできない人

 例えば、1時間に2000円以上の価値の仕事をしている人(以下A)が、時給1000円しか貰えていないなら、「最低賃金を1500円にしろ!」と言うのは納得できるし、そうするべきだと思う。
 しかし、1時間に500円以下の仕事しかできないにも拘らず、時給1000円もらっている人(以下B)が「最低賃金を1500円にしろ!」と言っても誰も素直には納得できないのではないかと思う。

 世の中には時間で計れない仕事も多々あるので、最低時間給をどうするべきかというような話はあまり現実味がないとも言えるのだが、思考実験的に最低賃金を1500円にすれば、どうなるかを考えてみよう。

■時間給の存在理由

 時間給というものがなぜ存在しているのかというと、その理由の1つは格差を固定するためにある。この格差とは正社員とアルバイトの間にある格差のことではなく、アルバイト間にある格差のことである。
 先の説明に出てきた通り、AとBの2種類の労働者の給料制度を完全な能率給にしてしまうと、Aは時給2000円、Bは時給500円になるかもしれない。これでは大きな給料格差が生じることになる。無論、それがアルバイト間における公平な同一労働同一賃金であるわけだが、公平よりも平等に重きを置く日本の会社では、これでは上手くやっていけない。そのため、両者の平均的(実際は平均以下になる)な時間給というものが暗黙の了解的に決められることになる。(ここではその平均的な時間給を1000円として考えるものとする)

 その暗黙の了解を破って時間給を1500円に上げるとなると、AかBのどちらかが、より多くの仕事を行い、平均値を底上げしなければならなくなる。となると、常識的にはAではなく、Bが生産性を上げなければいけなくなる。それが可能であるなら問題ないが、もし無理であるなら、Bはその会社を辞めなければならなくなる可能性が高くなる。
 会社を辞めたBは、よその会社に行っても、1500円分の仕事ができないという理由で仕事に就けなくなる可能性も高くなる。
 今まで、500円以下の仕事量でも時給1000円で雇用されていたBは、今度は1000円どころか1500円以上の仕事をしなければ雇用されなくなる。
 それは結局、Bにとっては時間給の崩壊であり、徹底した能率給への移行を意味する。Bにとって、その絶望感が如何ほどのものかは想像するに余りある。普通の能率給であれば時給500円で雇用されることは可能だが、実体と乖離した最低賃金というものが設定されると、雇用機会すら失うことに繋がってしまう。それは、Aにとっては公平な社会の到来を意味するが、Bにとっては圧倒的な格差社会の誕生を意味している。

 最低賃金を無闇に1500円に上げても、1000円で買える商品が1500円に値上げされれば意味がないわけで、物価を固定したまま、最低賃金のみを上げるためには、残念ながら生産性を上げるしかない。それができなければ、その代償として格差が広がるのは避けられない。

■昔とは真逆になった格差是正運動

 産業革命以前の格差否定とは、ろくに仕事もせずに高給を得ている人々を否定するためのものであり、同じ仕事をしているにも拘らず、給料格差が有ることはおかしいという主張だった。当時の単純な仕事では、1人当たりの生産性はそれほど変わらなかったので、格差が有るのはおかしいというのは筋が通っていたとも言える。

 これを現代に置き換えると、正社員と同じ仕事をしているアルバイトやパート従業員が、「正社員は不当に利益を得ている」と否定しているのと同じ構図になる。
 しかし、構図は同じでも、求めているものが全く逆になってしまっていることに目を向けよう。
 かつては、「ろくに仕事もしていない人の給料を下げろ!」だったはずだが、現代では、「我々も、同じだけ給料を上げろ!」になっている。ここに大きな違いがあることを見落としてはいけない。

 同一労働同一賃金論争は、昔は給料の安い方に合わせろという論争だったが、現代では給料の高い方に合わせろという論争になっている。この矛盾点を指摘する人はほとんど(誰も)いない。
 格差是正運動でも、昔と今とでは目的が逆さまになっているという矛盾、この矛盾をまず見直さない限り、同一労働同一賃金論争はどこまでいっても絵に描いた餅になる。

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コメント


〉同一労働同一賃金論争は、昔は給料の安い方に合わせろという論争だったが、現代では給料の高い方に合わせろという論争になっている。この矛盾点を指摘する人はほとんど(誰も)いない。

初耳です。

もう少し詳しく教えてください

投稿: | 2016年1月12日 (火) 12時54分

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