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2016年11月

宙に浮いてしまった「TPP」論議

■「保護主義」は「鎖国主義」のことを意味しない

 次期アメリカ大統領が決定したことで、トランプ氏の「保護(貿易)主義」というものに注目が集まっている。これまで自由貿易礼賛一辺倒だった世論にも少し変化が生じてきたのか、自由貿易に異を唱える評論家も現れてきつつある。

 「保護(貿易)主義」などという言葉を聞くと、条件反射的に「鎖国」とイメージする人が多いのかもしれないが、トランプ氏が掲げている「保護主義」というものは、おそらく行き過ぎた自由貿易を牽制するという意味合いでの物言いであって、別に「鎖国主義」のことではないと思う。
 「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という言葉の通り、自由貿易も行き過ぎると返って経済を悪化させることを理解した上での発言だろうと思う。
 同じく「鎖国主義」も行き過ぎると経済を悪化させる原因と成り得るので、その辺の妥協点を探ることが現代の政治家の重要な役割でもある。

 行き過ぎた自由貿易は悪と考えることができる人なら、行き過ぎた保護貿易も悪だということが解ると思われるので、それほど悲観視する必要もないような気がする。
 恐れるべきは、経済に無理解な政治家が出現することであって、経済を理解した上での「保護主義」ならそれほど問題視する必要もないと思う。

■「TPP」の本質は「いじめられっ子連合」

 その「保護主義」に関連して、アメリカの「TPP離脱」というものにも注目が集まっており、アメリカがTPPに反対の立場を採ると、TPPの実現は暗礁に乗り上げることになるので大問題だということになっている。

 「TPP」とは「環太平洋戦略的経済連携協定」のことであり、その名の通り、太平洋を取り囲む国々の貿易協定のことだが、その本質は「いじめられっ子連合」とも言えるもので、いじめっ子である中国からの威嚇を牽制するためにこそ必要な協定である。これは、アメリカの弱体化を理由として進められてきたスクラム協定とも言えるので、トランプ大統領でかつての強いアメリカが復活するのであれば、話は少し変わってくる。
 元々、「TPP反対論」は「反米論」と軌を一にしていたが、その構図も崩れてしまうかもしれない。アメリカがTPP反対なら、逆に「TPP賛成」と言う人が出てくるかもしれない。

 現状、「保護(貿易)主義」を主張しているアメリカがTPPに参加する必然性は無く、実際にトランプ氏が「TPP不参加」を表明したとも伝えられている。そのため、違った形での新しい協定を再構築する必要があるかもしれない。ある程度の関税を認めた上でのTPPにするか、アメリカ抜きの半TPPにするか、あるいは、各国がアメリカと個別の貿易協定を結ぶか、いずれにしても、今後の大きな政治的外交課題となりそうだ。

■行き過ぎた自由に待ったをかけるトランプ氏

 アメリカが今後、本当に「保護主義」を貫徹するとなると、世界経済の様相は一変する可能性がある。
 以前にも書いたことだが、自由貿易の優位性を説いたリカードの比較優位説は、200年も前の経済理論であり、現代の複雑な世界経済を勘案して説かれたわけではないので、必ずしも正しいとは言えなくなっている。インターネットの出現によって経済の常識が根底から覆ってしまったので、従来の経済理論は役に立たなくなったとも言える。
 その時代にどれだけ正しい経済理論であったとしても、時代の変化とともに風化していくことは避けられない。経済原理は時代が移っても変化しないが、経済理論は時代とともに変化する。
 時代に不適合になった経済理論を疑うことなく妄信することしかできなくなってしまえば、それはもう経済学者の姿とは言えない。「経済学の学者」と「経済学者」の違いはそこにある。トランプ氏は幸いにも後者に属する政治家なのだろう。

 トランプ氏の「保護(貿易)主義」の要諦は、市場のソフトランディング化、これに尽きると思う。「自由貿易」は度が過ぎると市場をハードランディングさせることになるので、少し「保護」することによって、市場のソフトランディング化を狙っているのではないかと思う。つまり、現在よりも「市場を安定化」させることが目的だと思う。
 過保護に成り過ぎるのも問題だが、自由で有り過ぎるのも問題だ。あまりにも自由に偏り過ぎた現代の市場に待ったをかけるという意味での「保護」であるなら、市場も健全化するかもしれない。

 これまで子供の自由に任せっきりだった父親が、威厳を取り戻して、子供のやりたい放題の自由に待ったをかける。トランプ氏からは、そんな父性が感じ取れる。

【追記】2016.11.24
(BLOGOS転載記事のコメントに対する返答になります)

>そもそも、国内の格差問題を保護貿易によってなんとかしようというのは、その国のパイ全体を減らす、貧困への道である。

 記事にも書きましたが「保護貿易」は鎖国のことではありませんし、「保護貿易」にも様々なレベルがありますので、「保護貿易」にすれば必定的に貧困への道を歩むことになるというのは考え過ぎだと思います。私は自由貿易を否定しているわけではなくて、行き過ぎた自由貿易を否定しているだけです。そもそも、TPPも完全に関税を無くす協定ではありませんので、保護貿易協定の範疇に入るものです。

>TPPの本質は、公正で秩序ある自由貿易の実現なのだ。そこにはフェアなルールが不可欠であり、TPPはそれを実現するものだ。

 私はTPPが必要無いとは言っていません。公正で秩序ある自由貿易などというものは、本当の意味において国際間格差が無くならなければ実現できません。TPPは公正で秩序ある自由貿易の入り口に過ぎません。

>TPPを単なる関税同盟というのは、TPPの本質を理解していないことになる。

 そんなことは書いていません。TPPには外交的手段としての側面(もう1つの顔)があると書いているのです。

>自由人氏は、経済学者が時代遅れと論じている

 いえ、「過去の経済学」を学ぶ人と「現代の経済」を学ぶ人がいると書いただけで、経済学者が時代遅れなどとは書いていません。「過去の経済学」だけに囚われることが時代遅れだと述べているのです。

>自由人氏の理解こそ、ウィンルーズの重商主義的であり、19世紀的国民国家絶対主義の見方である。つまり「他国人がどうなろうと、地球がどうなろうと知ったことではない」ということだ。それでいいのか。

 良いわけはないでしょう。では逆に質問させていただきますが、自分自身は犠牲になっても構わないのでしょうか? 他国人がウィンとなり、自国民はルーズになることで良いのでしょうか? 本来の経済学の理想はウィンウィンのはずです。自己犠牲を強いる経済学が有るとすれば、それはユートピア思想ということになります。

>気候変動を激化させるCO2の問題は、まさに「自由市場の失敗」の典型だ。

 気候変動の理由がCO2というのは、科学的に証明されておらず、未だ仮説の域を出ていません。

>中国が加盟できる状況になることは、世界にとって望ましいのだ。

 現在の中国がTPPに加盟できないのには、それなりの理由があるわけで、その問題が解決されるなら、それは喜ばしいことでしょうね。

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ネオ・アメリカンドリームの胎動

■ドナルド・トランプの時代

 世界中から注目されてきたアメリカ次期大統領選は、巷の識者達の予想とは裏腹に、ドナルド・トランプ氏が大統領の座に就くことになった。
 ジャーナリストの木村太郎氏が言われている通り、「民主党の次は共和党」と相場が決まっているので、順当に行けばトランプ氏が選ばれることは、ある程度、予測がついたことでもある。
 私も、半年前にトランプ氏が大統領になると予想していた(→『暴言王トランプの強かな選挙戦略』)ので、トランプ氏が大統領に選ばれたことについてはそれほど驚かなかったが、日米文化の違いというものをまざまざと見せつけられた選挙という意味では、驚嘆せざるを得なかった。

 もし、現代の日本に大統領制というものが存在し、トランプ氏のような人物が現れて大統領を目指そうものなら、どうなっていただろうか? おそらく、世論とマスコミから総バッシング&総スカンを喰らい、大統領になるどころか、社会的に干されることになっていただろうと思う。
 日本で今回のような大統領選挙が行われていたとすれば、圧倒的大差でクリントン氏が勝利しただろうことは容易に想像が付く。

■「建前」から「本音」へのチェンジ

 かつて、オバマ氏の言葉「チェンジ」がもてはやされたことでも分かる通り、元々、アメリカ社会は日本と違って「変化」を好む人々が多い国でもある。しかし残念ながら、オバマ氏ではアメリカ社会はチェンジできず、むしろ、何も変えることができない国になってしまった。ゆえに、米国民は、本当に社会を変えてくれる大統領を潜在的に待ち望んでいた。

 オバマ政治によって普通の国化しつつあったアメリカは、いつの間にか建前を重んずる国に傾倒してしまい、有権者達も実際に投票するまでは本音を隠していたのではないか?と思われるフシがある。「誰に投票しますか?」と聞かれれば、無難に「クリントン」と答えていただけかもしれない。
 選挙直後に行われたアンケート調査では「ヒラリー・クリントンが圧倒的有利」などと伝えられていたぐらいだから、実際に本音を隠していたと観るのが正解だと思う。トランプ氏を応援することに、どこか後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。

■V字を描いた世界の株式相場

 ブレグジットの時も、日本の株式市場ではパニック売りが出たが、今回のトランプショック(と言うよりもトランプパニック)でも、案の定、パニック売りが出た。
 私は、ヒラリー・クリントン氏が大統領になれば、一時的には株価は騰がるが、長期的には下げることになると予想していた。逆に、トランプ氏が大統領になれば、一時的に株価は下がるが、長期的には騰がると予想していた。しかし、その下げ期間が僅か1日で終わるとまでは予想できなかった。

 トランプ氏が次期大統領に決まっても日本人のようにパニくることもなく、冷静に将来を見据えて株式を買うことができるアメリカ人の懐の深さ。この圧倒的な違いにカルチャーショックを感じずにはいられなかった。

 日本では、トランプ氏の優勢が伝えられた時点で空売りを仕掛けた投機家が大勢いたと思われるが、当日に買い戻した人以外は全員踏み上げられて大損したのではないかと思う。そう考えると、今回、トランプリスクに賭けた人にとっては、かなり意地悪な相場だったと言えるのかもしれないが、わずか1日で歴史に残るようなV字を描いた株式チャートが今後の動向を指し示しているようで、実に頼もしい。日本の株式市場も完全に底打ちした格好だ。

■トランポノミクスでNYダウは2万ドルに向かう

 実際のところ、「トランプショック」などと言っても、有権者の過半数がトランプ氏に投票しているわけだから、それがショックのはずがないわけで、変化(チェンジ)を望む多くの人々の期待が叶ったわけだから、米国民にとっては「トランプサプライズ」だったはずだ。その証拠に、アメリカでは選挙が終わった初日から株価は上昇した。日本の株価はいつもアメリカ次第なので、日本の「トランプショック」は1日で終わってしまい、「トランプが大統領になると為替が95円になる」といった御託宣は、ただの妄言になってしまった。
 今度は、「トランプバブルで為替が115円になる」と言うような人が出てくるかもしれない。

 トランプ大統領が誕生することによって、今後、NYダウ平均は2万ドルを超えてくることが予想される。日経平均株価は先に述べた通りアメリカ次第なので、これもコバンザメの如く2万円を再度、試すことになるかもしれない。おそらく、余程の地政学的リスクが顕在化しない限り、次のオリンピックまでは緩やかな上昇相場が続くのではないかと予想する。もっとも、強いアメリカが蘇れば、逆に地政学的リスクは後退する可能性が高い。
 トランプ氏の「アメリカンドリームを取り戻す」という発言が本当であるなら、2万ドルは目標ではなく通過点と考えるべきだろう。

 建前社会から本音社会への「チェンジ」、ネオ・アメリカンドリームの始まりだ。

 【注意】あくまでも個人的な予測なので、株式投資は自己責任でお願いします。

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