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『マルキシズムとは何か』を読んで

■新書1冊800円は高過ぎる?

 最近、書店に足を運び、新書コーナーに立ち寄る度に、「新書の値段が高過ぎるのではないか?」と思えてしまう。1冊800円(税抜)という価格設定が消費者の購買意欲を引き下げているのではないか?と思う時がある。これがワンコイン(500円)なら、もっと売れるのではないだろうか?と。

 実際は、本の価値なんて、あやふやなもので、本当に面白い本なら数千円出しても構わないし、全く面白くない本には100円も出したくない、それが消費者の本音だろうと思う。しかし、それはあくまでも読後の話であって、読む前にはその本にどれだけの価値が有るのか分からない。ゆえに、本を買うことが一種の賭けになってしまう。

 本の原価というものは、発行する部数によって大きく変わることはよく知られている。発行部数が大きくなればなるほど、原価は安くなっていく。売れることが分かっている人気漫画の『ワンピース』や『キングダム』などは、初版から大部数印刷できるので原価は大幅に下がり利益率も大幅にアップする。多くの本が売れなくても、一部のベストセラー本が出れば、それで潤うというのが、出版業界のビジネスモデルでもある。

 書店で販売されている新書の値段は200ページ程で700〜900円位が一般的だが、電子書籍でしか販売されていない本となると、ぐっと値段が下がる。電子書籍の場合、ページ数はマチマチで、中には数十ページという短い本もあるが、価格も比例して安くなる。
 私も昨年にKindleFire10を購入したので、たまに電子書籍を購入することがある。電子書籍としてしか販売されていない本に限られるが、まず初めに購入した本が現在、絶版になっている河合栄治郎氏の『マルキシズムとは何か』という本だった。

■戦前、全体主義と闘った思想家

 河合栄治郎(1891-1944)と言えば、知る人ぞ知る立志伝中の人物であり、戦前に左右の全体主義と闘った思想家としても有名な人物だ。最近は保守系の本でも度々、その名を見かける。例えば、『共産主義の誤謬』や『「リベラル」という病』にも河合栄治郎氏のことが紹介されていた。

 この『マルキシズムとは何か』は、僅か140ページの本ながら、実に興味深く面白い本だったので、既に何度か読み返している。戦前にこれだけのことが書ける人がいたとは驚きであり、53歳という若さで亡くなったことが悔やまれるほど惜しい人物だったと思えた。
 保守の重鎮だった渡部昇一氏が「河合栄治郎が長寿であったなら、
日本のインテリは、30年も早くマルキシズムの幻想から自由になっていたであろう」と述べていたことの意味が少しは解ったような気がした。

 ただ、河合氏は、左の全体主義者(=左翼)と右の全体主義者(=右翼)の双方を敵に回したため、その言論の一部が都合よく、左翼に利用されたり、右翼に利用されたりすることがあるらしいので、その辺は少し注意する必要がある。しかし本書は、河合氏本人が書かれた書物なので、脚色されている心配はなく、彼の素の意見が読める。

■マルクス主義の矛盾を一刀両断

 本書で、河合氏は「酔生夢死の徒※」という言葉を使用し、当時の東京帝大生(現在の東大生)の一部を思想的に分類されている。3000人の学生中、7割の学生が「酔生夢死の徒」であり、残った3割の内の1割が保守的学生であり、1割が進歩的傾向を持っている学生、そして残る1割がマルクス主義者だと述べている。要するに当時の東大生の1割(300人)がマルクス主義者だったということになる。しかし、その1割が全体の3000人を引っ張るだけの影響力を持っていたらしい。
 それというのも、当時は、学生を虜にするような思想が日本に無かったことが禍いして、優秀な学生がマルクス主義に惹かれることになったと書かれている。

※何等目的もなく、唯空々寂々にその日その日を送っている学生

 河合氏はマルクス主義の影響力は認めながらも、マルクス主義の矛盾については、哲学的な見地から論理的にバッサリと一刀両断されている。マルクスの誤りをここまで見事に論破した本も珍しい。特に、唯物論、唯物史観の反駁は白眉で痛快、深く納得させられた。
 戦後の著名な作家や評論家でも唯物史観にどっぷりと漬かったような人が多く見受けられるが、河合氏の聡明ぶりはそういった人々とは一線を画しており、まさに本物の知識人という印象を受けた。

 わずか180円でこれだけの知識を得られるというのも、紙の新書とは一線を画している。是非、多くの人に読んでいただきたいと思う。


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