ブックオフは文化の破壊者か?
街角の書店は近頃めっきり減ってしまい、郊外型の中型書店も減少傾向にある。
ネットでの書籍販売や古本売買、古本のネットオークションなどが活況を呈しているので、これはまあ仕方のないことではある。いくら都心の大型書店が品数豊富とはいえ、揃わない(在庫が無い)本は必ずある。数年前に販売された書籍に至っては言うに及ばずだろう。かつて、そういった古本は、古本屋巡りをしてやっと見つかるという代物だったが、今は違う。ネットを隈無く探索すると大抵の本は見つかってしまう。
古本の場合、保存状態にこだわる人は多いが、オークションでは写真付き、アマゾン等でも状態のランクが付記されているため、吟味すれば、保存状態の良い本も選択することができるようになっている。こうなると、確かに既存の書店の存在価値は低下せざるを得ない。既存書店の強みと言えば、立ち読みして中身を確認してから購入できること位しかないかもしれない。しかしこれは消費者にとっては有り難いことだが、書店にとっては有り難迷惑な話だろう。「立ち読みのためだけに書店を利用されたのではたまったものではない!」という怒りにも似た悲鳴が聞こえてきそうだ。
ところで、少し前に、漫画家の小林よしのり氏が、古本屋のブックオフは文化の破壊だと言っていたことがある。これについて少し考えてみよう。
ブックオフと言えば、言わずと知れた全国展開する大型の古本ショップだ。店内に並んでいる古本には2種類の値段体系があり、1つは市価の半額、もう1つは100円で統一されている。新刊や発行後間もない本、人気作家の書籍などは半額、あとはほとんどが100円になっている。 中にはこれに準じない本もある。人気があるのに100円というマーケット調査ができていない本はある。こういった本は目敏い消費者が購入し、オークションで転売(?)してマージンを取っている場合が多い。市場原理のスキマ(需要と供給のバランスギャップ)を埋めるという上手い商売でもあると言えるのかもしれない。これもネットがあればこそ生まれた商売と言える。絶対に転売できるという保証はないし、売れる本を見抜く眼力も必要なので、リスクのある商売という意味では、立派な商行為と言ってもいい。
さて、本題に入ろう。ブックオフは文化の破壊者か?
確かに著述家にとって、自分が苦労して上梓した書籍を100円という低価格で何度も転売(回し読み)されてはたまったものではないという意見は理解できる。
この場合も、先の本屋と同じように、消費者にとっては有り難いが、作家にとっては有り難迷惑な話と言える。何が迷惑なのかと言うと、『著作権が無視されている』という一言に尽きるだろう。つまり、100円で売られていることが問題なのではなく、値段に関係なく著作権が全く入っていないということが最大の問題なのだ。
小林氏の論理で考えると、たとえ半額で売られていたとしても、その中に著作権料が入っていないのなら、それも文化破壊になってしまう。あるいは図書館はどうか? 当然、著作権料は入っていない。そう考えていくと、著作権料がキチンと入っている新刊で販売されているショップ以外はすべて文化の破壊者となってしまう。ゆえに、ブックオフのみを文化の破壊者と言うのは少し偏った乱暴な意見でもあると言える。先ずは、「古本にも著作権を適用せよ」と言うのが筋ではないかと思う。
要するに、今まで著作権が無視されてきたこと自体が問題なのであって、ブックオフのみが悪いというわけではない。もし古本にも著作権というものが既にあって、ブックオフが100円で売られている本に1割(10円)の著作権料を付けて110円で売っているのであれば、「著作権料10円というのは安過ぎる、それは文化の破壊だ」というならまだ話になるが、元々、著作権が無視されている業界に100円で販売するショップが現れたとしても、そのショップだけが悪いわけではない。
かくいう私もよくブックオフは利用する。100円の書籍を買うことも多い。しかしそれが文化の破壊だとは思わない。なぜかと言うと、たとえその時、100円で購入したとしても、その本が本当に面白いと思えたのなら、その本を書いた著者の書籍はその後、新刊で購入する場合が多いからだ。その作家のファンになれば、古本が出る前に新刊で購入してしまう。
つまり、100円で買える本というのは、呼び水の役割を果たすことにもなる可能性があるということだ。定価で販売していては買うことができずに気が付かなかったことが、100円という安価な値段のせいで、その本の縁に触れ、今後の消費に繋がる可能性がある。それは文化の破壊と言うよりも、文化の波及とも言える。必ずしも書籍を新刊(定価)で販売することだけが正しいとは言えないのである。
小林氏は「物には適正価格というものがある」とも書いていたが、本の価値というものは、中身(内容)で決まるものだと思う。新刊で購入する価格が一緒であっても、その本の価値は読んだ人によっては違ってくる。10万円の価値があると思う人もいれば、1円の価値もないと思う人もいる。作家がどれだけ苦労して書いたかということは、消費者サイドから観た場合、あまり関係があるとは思えない。本の適正価格を判断するのはあくまでも個人個人であって、作家ではない。
ブックオフが100円で販売できるということは、裏を返せば100円以下で買取ってもらってもいいと思っている人がいるということである。つまり、買取ってもらう方も100円以下の値打しかないと思っていることを意味している。買取ってもらう方が、「100円以下(実際は10円という場合もある)でなんてとても売れない」ということなら、元々、100円で販売する商売などは存在し得ない。それが成り立っているということは、販売者であるブックオフだけでなく、購買者である消費者にも原因があるということだ。双方が、100円以下の値打しかないと判断することによって初めて成り立つ商売であるということを見落としている。
それともう1つ追加しておくと、統計的にも人気のある(つまり価値の高い)本は、古本屋にはあまり出回っていない。小林氏の書籍もおそらくこの部類に入るのだろうと思う。
本当に価値ある本というものは、手許に置いておきたいと考えるのが、世の読書人の常だろう。古本が100円で売られていることが悔しいのであれば、100円で売られない本を書く努力をすればいい。作家がモチベーションを上げることにつながるのなら、古本屋は、文化を高める役割を果たす可能性もないとは言えないのではないだろうか。
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